Monday, July 29, 2013

春琴

こんにちは。Ryoko Rachelです。


先週の土曜日、久々に日本の演劇を見て参りました。
谷崎潤一郎原作の「春琴」です。
東京・世田谷パブリックシアターで2008年に初演され好評を博し、先日ニューヨークで行われたリンカーンセンター・シアター・フェスティバルでも上演されました。 しかし関西は今回が初。しかも兵庫県立芸術文化センターでの1回のみ。

主人公の春琴を演じたのは深津絵里さん。
監督はサイモン・マクバーニー氏です。


ストーリーは、春琴の生きた19世紀と、春琴の物語を朗読する現代のNHKスタジオが交互に絡み合い展開されます。
監督は春琴をただの古典として扱うのではなく、現代に生きる我々の人生と絡めることで、現代から隔絶された物語ではないということを強調しようとしたのではないかと思います。また、空気の読めない(笑)スタジオのディレクターを登場させることで、張りつめた物語の中にコミック・レリーフを加えようとしたのでしょう。

アイディアとしては非常に面白かったです。しかし物語に入り込んだところでいつも引き戻され、どっぷりと浸りきりたかった私としては今ひとつでした。谷崎純一郎の耽美の世界を徹底的に演出し、作り込んでいってほしかったです。まさか観客が2時間、春琴の物語だけでは集中力が切れるとでも思ったのかしら?

もう一つ気になったのは字幕の使い方です。
 ハイライトの部分のみ、朗読の字幕が表示されたのですが、これが読みにくい。フォントの問題なのかプロジェクションの問題なのか。そして、果たしてこれが本当に必要な演出だったのか、と言われると疑問です。
ニューヨーク公演では全編英語字幕がつけられたようですが、舞台とスクリーンの離れていたせいで見にくかった、とのレビューがでていました。どうしても舞台の構造上、仕方のない部分はあるのでしょうが、そのせいで素晴らしい演技や演出を見逃してしまっては本末転倒かと思います。



しかし、役者の方々の演技や音響・照明の使い方は素晴らしかったです。

特に畳1枚1枚で室内の広がりを、木の棒を襖とし部屋の区切りを表現していたことに感動しました。 最小限の要素で空間を構成するというのは日本の様式美にも通ずるものが感じられ、それを当たり前として育ってきた私からするとマクバーニー氏の着眼点に感服しました。また、木の棒は襖だけでなく、三味線や墓標としても使われ、何もない舞台を様々な場所へと変貌させました。そして、その畳や棒を操るコーラスの役者達の動きがぴたりと合った舞踊のように美しく、耽美の世界を効果的に演出していました。


総評としては、見る価値のある演劇であることは間違いありません。確かに今ひとつな点もいくつか挙げましたが、それを補って余り有る見応えのある素晴らしい舞台であったことには変わりありません。(ただ、パーフェクトな作品なんてほぼ存在し得ないというだけのことです。そしてだからこそ芸術は面白い。)
今回はカーテンコールで拍手が鳴り止まず、キャストの皆さんは6〜7回は舞台に出ていらっしゃいました。それだけ観客が感動したということですが、演劇はコンサートやミュージカルと違い、アンコールでじゃぁ1曲、なんていかないので キャストの皆さんもちょっと困ってらっしゃるのが見えてしまいました。(笑)



最後に一つだけ、私がどうしても許せないこと。

今回のチケットを予約するにあたり、まだまだ駆け出しの身である私は一番安い席のチケットを購入しました。それがバルコニー席(舞台の横、壁にそって作られた席)だったのですが、予約センターの方の「バルコニー席でも舞台で見えないところはありません」とのお話を信じて、まぁ8割ぐらいは見えるだろうと行ってみたら何と普通に座ると舞台の半分も見えませんでした。嘘はダメですよ。嘘は。

原因は今回使われたのが、劇場ではなくコンサートホールだったこと。建物の設計が違うんです。コンサートホールは、例えばオーケストラの端の方の人が見えなくても音が美しく聞こえるよう設計されていますが、劇場はどの席からもせめて8割程度は舞台が見えなければストーリーを追うことが出来ません。加えて、劇場は細かな演出の為にどこにどれだけライトを吊るせるか、大道具を置けるか(オペラ座の怪人のシャンデリアなんて難しいですよね)、音響が均一ではなくどこから聞こえてくるのかがわかるように響かせられるか、などより複雑な要素が必要となってきます。

こんな細かいことを言えば、めんどくさい奴だと思われるかもしれません。それでも私は敢えて言いたい。コンサートホールと劇場は別物です。蹴鞠とサッカーを同じフィールドではやらないでしょ?それと同じ。私はただ、日本の演劇界がより発展し、誰でもそれを楽しめるようになるのを願っているだけなんです。



だって、私は演劇が好きですから。

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